焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
『逃げるなよ』
智美はそれほど酒に強くない。
その上、この数日の疲れが出たのか、缶ビール一本でトロンとした目をしたかと思うと、リビングの床に丸まるようにして眠ってしまった。
俺がトイレに行ったほんのちょっとの間の寝落ちに、つい苦笑してしまう。


「ったく……」


世話の焼ける、と呟いて笑いながら、床から智美を抱き上げた。
俺の胸にコテンとぶつかる智美の頭。
茶色く染めた長い髪から、俺と同じシャンプーがふわっと香る。


そんなことに何故だかホッとしながら、寝室に向かう。
ほんの少し開いたドアを足で開いて、肩でドアを支えながら中に身体を滑り込ませた。


ベッドの右側、智美のスペースに横たわらせて、その横に軽く腰掛ける。
俺が見下ろしていると、智美は横になった途端に小さく身体を丸めて規則正しい寝息を立て始めた。


いつも思うが、智美は見た目も仕草もしなやかな猫みたいだ。
日頃の智美を思い出して無意識に顔が綻ぶのを感じながら、次の瞬間、胸がチクッと痛むのを感じた。


智美は自分で自覚していないし、多分認めはしないけど、気まぐれな性格も猫っぽいと思う。
俺も元々そう気が長い方じゃないし、この六年間、ちょっとしたことで何度も喧嘩をした。


それでも、今まで一度も別れ話をされたことはない。
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