先生、恋ってなんですか?
冬の日の再会

それは約1年前の、とある夜のこと。
冬から春にかけては大小さまざまな宴会が入る忙しいシーズン。
その日もいつものように、あくせくと私は働いていた。

「いらっしゃいませー!」

戸口をガラリと開けて先輩なのか同僚なのかに連れられて入ってきたその人を見て一瞬、私の笑顔が固まった。
けど、一瞬で通常運転に戻る自分、ナイス。
思わず接客業歴6年の自分を褒める。

そうかな?それっぽい人?他人の空似?
6年も会ってないし、うろ覚えだし。
ましてここは地元から離れた土地。
別人別人!
頭の中では、大葛藤の大混乱。
表面を取り繕って、いらっしゃいませー!と大きな声で予約席までご案内する。
けれど内心ドキドキで。
バレないように、違う人だと言い聞かせてお席からささっと立ち去った。

もう、なるべくあの席には行くまい、と心に誓う。



うまい具合にお店も込み合ってきてキッチンで黙々と作業を進めることにした。
カウンター越しに例の席が見えるけれど、なるべく視界に入れないように。
なるべく視線を下げて、カウンターに常連さん、来い!と念じて仕事に没頭した。


< 8 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop