俺様上司は溺愛体質!?
男難の卦

「いい女って……いい女ってなにっ!?」


 国内有数の下着メーカーであるplaisir(プレズィール)本社18階。
 営業部の端にある自分のデスクで萩原ちとせ(はぎわらちとせ)は、うめき声を上げた。
 さながら断末魔といったところか。誰が見ているわけでもないのに両手を天井に向けて一人芝居風である。

「どうしたの急に」

 向かいのデスクに座っている同僚の小坂細布子(こさかたえこ)が怪訝そうに書類の山から顔をのぞかせた。

「疲れで馬鹿になったの?」

 結構な発言だが、これは仲の良い二人の通常運転だ。

「ええっと……一瞬意識が吹っ飛んで……嫌な夢を見たというかなんというか……現実逃避……かな……?」

 時計は午後九時を回っていた。昼からまともに食べていないので、いい加減疲れもピークである。ただキーボードの上を走る指先が惰性で動いているだけだ。

「わからないでもないけどほどほどにしてね、仕事は山積みなんだから」
「わかってるよ……」

 しぶしぶ体を起こし、パソコンのディスプレイに目を向ける。

(それにしてもこんな時ですらあの時の言葉がフラッシュバックするなんてね……。)
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