魅力的なアナタが好きです。
‐1‐アナタと僕
ー美しいと、思った。
髪色は上品で明る過ぎない艶のあるピンクベージュで、長さはミディアムボブ。
瞳の色は、何もかもを遮断するかのような妖しいノワール。
肌は血管が薄く透ける程、クリアな白さ。


そんな彼女の名前は、桐野あまね。
新しくバイトで雇った大学生でとても愛想が良く、働き始めて数日でたちまちにこの喫茶店[徒然草]の看板娘になっていた。



「屋敷さん、竹じいが呼んでる」

「唯くん、その呼び方はやめなさいとあれほど……!」

「本人が呼べって言ってんじゃん、客が望んでんすよー?」

「あのねえ、流石に限度というか、節度ってものが、」

「早く行ってください、店長」

「ここぞとばかりに店長呼び……!」




真顔で舌を出し、顔の横に角度を付けたピースを当てる彼は、佐々木唯。
ポーカーフェイスというか、無表情というか、最早能面の域に達している。
そのくせ、仕草には愛嬌があるので、どこか憎めないとお客様方に定評を頂いていた。
うちで働き出して3年、彼はうちでは既に欠かせないスタッフの一員で、ムードメーカー的な位置付けもされている。




「竹じいさま、おひやは……」

「水より白湯は頼めないかね?」

「大丈夫ですよ、少々お待ちくださいね」

「ありがとう、あまねちゃん」

「竹じいさまのためならこのぐらい全然大丈夫ですよ!……あ、店長!」

「お久し振りです、大竹さん。いつもありがとうございます。桐野さんもお疲れ様」

「ああ、屋敷。遅くにすまない。君が以前薦めてくれた珈琲豆がとても気に入ってな。定期的に購入をしたいと考えているのだが」

「え、本当ですか?嬉しいなあ!今どれくらい残ってます?」



この会話の間に桐野さんは、本来ならば和スイーツとセットで出す湯呑みに白湯を入れて、話の邪魔にならないように大竹さんの前に差し出した。
僕には耳打ちで「専用のがあったら喜ばれるかもです」と口早に告げる。
確かに大竹さんはおひやではなく、白湯を好まれる傾向にある、猛暑日等は例外だが。

……なるほど、大竹さん専用の湯呑みか。検討してみるのも良いかもしれない。
この店を開いてからずっと懇意にしてくださっているお得意様だ、少しでも良い気分で過ごして頂きたいし試してみる価値はある。
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