浅葱の桜
第二章~紅蓮の記憶~
揺れる影
「大丈夫ですか? 沖田さん」
「んなの、大丈夫に決まってんだろが!」
上掛けを引っぺがした沖田さんはひどく苛立った様子で上体を起こした。
その傍らで沖田さんの顔を覗き込んでいた私はその剣幕に思わずビクつく。
あの日、池田屋事件後最初は他の隊士に紛れて隊務をこなしていた沖田さんだったけれどその仕事が一段落するや否や即刻部屋に押し込まれた沖田さん。
その理由は血を吐いて倒れたという止められて当然の措置なのだが。
どうやらそれが沖田さんには気に食わないらしい。
「お、沖田さん。まだ体の状態が万全な訳でなないんですから療養しててください!」
ぎゅっと思わず彼の襦袢を握りしめると驚いたような顔をした沖田さん。
な、何かした? 私。
変な事を言ってないし、してないと思うんだけどなぁ。
「とにかく! こんな所に押し込められんのはもううんざりだ、土方さんとこ行ってくる」
と、そのままの格好で行きそうな沖田さんを必死に引き止めて着替えさせる。
寝てた時の格好そのままでだらしなすきる。
一番隊組長ともある人をこんな格好でウロウロさせる訳にはいかない!
六月半ばで未だに蒸し暑い。
なので夏用の着物を箪笥の中から引っ張りだしてきて沖田さんに押し付ける。
「行くのはこれに着替えてからにして下さい!」
それだけを告げて部屋の外に出る。
蝉の鳴き声がこの暑さを更に強く感じさせる。
ポタリと顎を伝った汗が着物に染み込んだ時。
ガラガラと障子戸の開く音がした。
「行くぞ。佐久」
「へ? 私もですか」
「ああ」
私の反論を言わせる余地もなく沖田さんはズカズカと歩いていった。