探偵の彼に追跡されて…
第一章 企業情報漏洩調査
丸の内を歩くサラリーマンやOL達の視線をさっきから独り占めする私は(私は間違っていない…)と心の中で呟き、7メートル先を歩く男性の足下へ視線を向けて無言で歩いていた。

時々隣から聞こえてくる溜息にムッとし一瞬そちらに視線を向け睨むが直ぐに先ほどの男性の足下へ視線を向ける。

「ねぇコート脱いだら?」

と、先ほどから私に溜息を投げていた男が呆れたように言う。

今はまだ2月と言うのに今日はポカポカ陽気で…いやポカポカ陽気なんかじゃない!暑い!すごーく暑い!!

サラリーマン達はシャツの袖を捲り、スーツの上衣がさも邪魔かのように肩に掛け手を額の上でかざし、日差しを憎らしいそうににらんでいる。

OL達も日傘を持って来なかった事を後悔するかのように日陰を探し、まるで子供の頃遊んだ、影踏みをしてる様にビルの影を探しながら先を急で行く。

「あのさー。通行人の視線を一人で浴びてないでさ? その分厚いコートを脱いでくれないかな? このままだと太郎さんに気付かれちゃうでしょう?」

そりゃ朝の天気予報を見なかった私が悪いかもしれないけど、朝、家を出る時は確かに寒かったし普段ならまだ2月なんだからダウンを着ててもおかしくない筈でしょ?…

それなのにさ? いくら異常気象だって言ってもこれは暑すぎるって言うの!

出来る事なら私だってコートは脱ぎたいよ…

「放っといてくれます? 気付かれたくないなら所長お一人でどうぞ!? 私は、事務員として雇われているんです。現場に出るなんて雇用書類にも書いて有りませんでしたし、それだけのお給料は頂いておりません!」

冷たく言い放つ私の手を所長は握り

「そんな冷たい事言わないでよ? 人手が足り無い事は美野里ちゃんも知ってるじゃん? この仕事の報酬が入ったら臨時ボーナス出すからさーね?」

目をウルウルさせ懇願する所長に私は大きな溜息を付いて見せる。

なにが臨時ボーナスよ!?

この5年間、ボーナスなんて一度も出してくれた事無いじゃない!

壊れたエアコンの修理さえも頼めないのに、臨時ボーナスなんて出せるわけ無いでしょ!?

そんな事、経理を担当してる私が一番良く知ってるわよ!!







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