ゆえん

Ⅱ-Ⅴ

 

複雑な事情と関係のまま、俺と楓と千里子は同じ音根高校に入学した。

入学式で瞳さんの姿を見た。

淡いピンク色のスーツがとても良く似合っていた。

楓と似ているけれど、楓より大人の女性だ。

やはり瞳さんの姿は俺の鼓動を忙しく動かす。

楓と瞳さんの二人を目の前にすると、俺はどちらに惹かれているのか分からなくなってくるのだ。


楓とはまた、クラスが離れてしまった。

千里子は俺と同じクラスに名前があった。

座席は出席番号順と決められていたので、俺は苦なく千里子の席と離れることが出来た。


中学の時は同じクラスになったことがなかったが、高校に来て沖要司、三原正幸と同じクラスになり、聴く音楽の趣味が合うところから、俺たちは急速に仲良くなった。

要司はクラス委員をやっていて、メガネを掛けているし、頭も良く、背も高く、ちゃらちゃらしたところもなく、どこか冷めているように見える男だが、とてもモテていた。

読書家で色んな知識が豊富で、話していると面白い。

それに比べて、正幸は要司を正反対にしたような男だった。

よく喋り、剽軽で笑いを取るのが上手いから、男にも女にもそれなりに人気がある。

足も速かったし、スポーツ全般を器用にこなす。

読むのはもっぱらマンガで、何かを例える時に出てくるのもマンガの中の登場人物やシーンが圧倒的に多い。

この二人と比べると、俺はギターが弾けること以外は特に何もない平凡な高校生だった。

成績は上の下くらいだし、スポーツも得意でも不得意でもない。

千里子以外にもてたこともないし、楓が俺のことを友だち以上に思ってくれているかもしれないが、恋人未満だろう。


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