ゆえん

Ⅲ-Ⅹ




今朝の空は雲が一つもなく、心地好い風が吹いている。

冬真さんが書いた看板にはジャンプする小さな靴が二つと大きな靴、そしてシャボン玉が描かれていた。


〈天気だ! シャボン玉取り競争だ!〉


その看板を私は店の玄関に置いた。

大きく深呼吸をして背伸びをすると、制服を着たマユがこっちを見て手を振っていた。


「おはよう」


マユはこっちに駆けてくる。


「どうしたの? こんな時間に。学校遅刻するわよ」


私が叱るとマユは肩を竦めて舌を出した。


「寝坊しちゃった。お母さんなんてまだ寝てる」

「だめね、美穂子は。今度きつく叱っとくよ」


美穂子の母親が夫の後を追うように病気で亡くなってから半年が過ぎていた。

小さかったマユは今ではもう中学一年生になり、制服を着ている。


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