抜き差しならない社長の事情 【完】
第三章 タンスの中のガラスの靴
夜8時過ぎ。
許可がない限り残業は出来ないことになっている社内は、人影もまばらだった。
ポツリポツリと照らされている照明の下には、
紫月の上司である相原がいる。
「お疲れさまです」
ふらりと顔を見せたのは切野社長だ。
「お疲れさまです、丁度よかった。
T社の見積もりのことでちょっと相談があったんですよ」
仕事の話をひと通りしたところで、
「じゃあ、これでよろしくお願いします」
「はい」
立ち上がった切野社長が、紫月の机の上に目を留めた。