過保護な彼に愛されすぎてます。
one


――あれ、私、異性にドキドキしないな。

そう思い始めたのはいつからだったんだろう。

小学校の修学旅行、布団に入ってから誰かが始めた恋バナは、聞いていて〝ふーん。そういうものなのか〟とは思ったけど、自分にはあてはまらなかった。

中学校のころ、バレンタインがどうのって騒ぐ友達と、人気があるっていう先輩を偵察しに行っても、なにも思わなかったし、当日はパティシエ顔負けの手作りチョコケーキを、なぜか郁巳くんからもらって終わった。

高校のころ、カッコいいし優しいし若いって三拍子そろった数学教師が校内で爆発的人気になったけれど、その先生と話しても、胸がときめくなんてことは、一度もなかった。

だって、私の隣にはいつだって郁巳くんが立っていて、うっとうしいくらいに纏わりついてくるから、誰かにときめいている暇なんてなかったように思う。

私の思い出のなかには、全部に郁巳くんがいる。
私の日常のなかにも、いなきゃ不自然なくらいに郁巳くんが入り込んでいる。

そして……それを郁巳くんは意図的にしていたのかもしれない。
私が気付いたとき、郁巳くんなしではいられなくなっているように。

私から逃げ道をなくすように……と思うと、ゾワッとした怖さを感じて、思わず苦笑いを浮かべた。

『あんな凶暴な想い、受け止めてくれるのなんておまえだけだろ、きっと。
まぁ、狂犬だとでも思って、うまいこと飼い慣らして頑張れよ』

マンションまでの夜道を歩きながら、吉原さんの言葉を思い出す。

飼い慣らすって表現にうんざりする。
あまりに的確に思えるって言ったら、郁巳くんに失礼だろうか。

でも……飼い慣らすっていったって、どうやって?
郁巳くんの要求を全部飲んでいたら私だっておかしくなってしまう。

郁巳くんの作る檻は多分、すごくすごく窮屈だ。

そこに収まるかどうかは別としても……きちんと覚悟を決めてから入り込まなくちゃ、お互い傷つくだけになる。

それに……郁巳くんが私に向ける感情が依存だけだったら話もまた違ってくるし。


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