すべてが思い出になる前に
5) 8年後の25歳の夏
時は流れて、8年後。
蝉が鳴き始め、夏だと感じ始めた頃。
1人の男性が白衣のポケットに手を突っ込みながら、スタスタと廊下を歩き、ある部屋の白い扉をガチャっと開けると
見当たる限るガラス器具や試薬が所狭しと並んでいる一角で、一人黙々と研究をしていた俺の左肩を叩き、カップコーヒーを机に置いた。
「お疲れ、たまには休めよ」
「はい。先輩、今日は何時まで残りますか?」
「もう俺帰るよ、最後お前だけだから戸締りよろしく」
先輩が研究室を後にした後、机に置かれたコーヒーを一口含んだ時だった。