リナリア
揺れるリナリア
* * * * *

「名桜!どういうことなの?」
「…なんか、すげー噂になってんぞ?」
「やっぱり…。」

 名桜は机に突っ伏した。HRにはぎりぎり間に合って、今は1時間目を待つ休憩時間だ。

「…見た?」
「私はね。蒼は聞いたみたいだけど。」
「…はぁー…。自分が芸能人だっていう自覚が足りない人みたい。」
「それで?伊月知春がなんで名桜に声かけて、しかも腕まで引っ張ってどこかに行くのかな?」
「…土曜、撮影したの。伊月知春。」
「うそっ!?」
「まじかよ!お前んちのスタジオ行きゃあよかった。」
「…そういう人たちを入れてたら撮影にならないんですけど?」

 名桜はじろりと蒼を睨んだ。

「悪い悪い。」
「事情聴取は昼だからね、昼!」
「昼はごめん、約束があって…。」
「約束!?」
「…行かなきゃならないんだよね。ちょっと。」

 歯切れの悪い返事しかできないことが申し訳ない。しかし、約束を破ることはしたくない。運よく丁度、化学の先生が教室に入ってきた。

「とにかく今日中に全部吐いてもらうからね!」
「…怖いなぁ。」

 名桜は伏せた身体を起こす。昼のことも憂鬱だが、もうすでにこの広まりようであることも憂鬱だ。何かと情報通な七海が知っていることは予想通りであるものの、どちらかといえば疎い蒼にまで知られているとなると相当だ。売れっ子俳優が学校に来るというだけで大騒ぎなのだから、当の本人には大人しくしていてもらいたい。
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