モテ系同期と偽装恋愛!?

「やっぱ、まだ無理か……」

「ごめんね……」

「謝らなくていいよ。急に治るわけないと思っていたし。90分平気だったという成果もあるから自信を持って。きっと治るよ」

励ましてくれる優しい彼は、腕時計に視線を落としてから立ち上がった。

次はもっと有効な方法を考えておくからと言って、スーツのジャケットを羽織り、鞄を手に持つ。

帰ろうとしている彼を玄関まで見送ると、真顔の彼に「じっとしていて」と言われた。

ゆっくりと彼の右手が私の頭に伸びてきて……。

ピクリと体を動かし、目をギュッと瞑ってしまったが、逃げようという気持ちは湧かなかった。

頭の上に温かく大きな手の平を感じ、その後に優しくポンポンと叩かれ、離れていった。

瞑っていた目を開くと、嬉しそうな顔した彼と目が合う。

「どう?」

「怖くなかった……」

「ほらね、進歩してるよ。
前は無理だったもんな」

進歩を実感させてくれた彼は「また明日」と言って玄関を出て行った。

パタンと閉まったドアの前で、そっと自分の頭に手を触れた。

平気だったことに少し驚いた後は、心臓がトクトクと温かなリズムを刻み始める。

嬉しい気持ちでリビングに戻ると、まずはキッチンのステンレスの籠の中の、洗い終えたふたり分の食器が目に入った。

それから、消されたテレビと空のソファーに目が行き、いつも通りの自分の部屋なのに、いつもより広く静かに感じてしまった。

遼介くんが家に来ると言った時、それは困ると思ってしまったが、今は……帰ってしまったことが少し寂しい……。

ソファーの彼が座っていた場所に腰掛けて、スマホを手に取った。

画面に表示したのは私と同じ名字で、短いメールを書いて送信する。

『今日はありがとう。また来てね』

そのままソファーに倒れ込む。

小花柄のクッションに顔を埋めると、仄かに甘い、彼の香りがした。


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