モテ系同期と偽装恋愛!?
「桃ちゃん、ちょっと待って。お客さんから横山くん宛ての伝言受けちゃって、メモ用紙、置いてくるから」
彼の席へと歩き出す。
広さ百二十平米ほどのこの部屋全部を、うちのライフサイエンス事業部が使用している。
一番奥に部長のデスクがあり、机五つを向かい合わせに並べた島が三つ。彼の席は私とは別の中央の島にあった。
出社予定時刻を過ぎてもまだ来ていないことに呆れつつも、いなくてよかったという感想も持つ。
彼とはなるべく話したくないので、言づけがメモ用紙で済むならありがたいことだ。
しかし、ホワイトボードの前から彼の席へと歩き出した三歩目で、「おはよーございまーす」と、明るい大きな声をドアのほうに聞いた。
姿を見せたのは横山遼介、二十七歳。
私と桃ちゃんの同期だが、主任ポジションの私達と違い、彼は係長。
うちの部署のエースと言われ、仕事が飛び抜けてできることを認めているので、上に立たれることに負の感情はない。
でも、私には彼が苦手な理由が他にあり……。
海外出張の疲れも感じさせず、爽やかで人当たりのよい笑顔を振りまく彼の登場に、周囲が一気に賑やかになる。
うちの部署の総員は三十一名で、そのうち二十代から三十代の社員が三分の二を占めている。
各自の席で昼食を取っていた人や、まだ仕事中の人など、若手の男女合わせて十人ほどが、すぐに彼にデスクに群がった。
「遼介、待ってたよ~。すっごく会いたかった~」
そう言って彼の腕に擦り寄るのは、一年上の先輩女子社員。
それに対して横山くんは「俺も杉田さんに会いたかったですよ」と笑顔を返している。
杉田さんに負けじと他の女子社員達も口々に甘えた声を出し、男性社員も彼の帰還を歓迎していた。
人気者の横山くんが長い出張から帰ると、大体いつもこんなふう。
しかし今日は一段と女子社員のアピールが激しいなと思いつつ、離れた位置から彼と取り巻きたちを眺め、桃ちゃんに向けてポツリと呟いた。
「横山くんって、総務の二年目の子と付き合ってるんだよね?」
うちの会社は若い社員が多いせいか社内恋愛にオープンな気質があり、特に注目を浴びやすい横山くんの恋愛沙汰ともなれば、興味のない私の耳にも入るほどに筒抜けだ。
彼女持ちであるはずの彼が、杉田さんとも他の女子社員達とも会いたかっただの寂しかっただのと、思わせぶりな会話をしていることが引っかかっていた。