手に入れる女
#1
佐藤はコーヒー片手に一息入れるところであった。

朝の業務が一段落した後、いつものように隣りのビルのコーヒーショップに足を運ぶ。

スタバが日本に上陸して十数年、おなじみのコーヒーショップがオフィス街のあちこちに出現している。

コーヒー好きの佐藤にとっては嬉しいことであった。

窓際に空いている席を見つけると、ゆったりと腰を下ろした。

今朝は特に慌ただしかった。一区切りついたところで、職場を抜けて気分転換に来たのだった。

熱くて火傷しそうなコーヒーを一口啜る。

それから窓の外を急ぎ足で歩く人々をぼんやりと眺めた。ガラス一枚隔てているだけなのに、外と店内では時間の流れ方が違うような気さえする。

ふっと気が緩む瞬間だ。

ようやくくつろいだ気分が広がった。



ふいに足元から何やら機械の呼び出し音が聞こえて来た。

少々訝しく思いながら音源を探すと、そこには見慣れぬケータイがあった。

佐藤はそれを拾い上げて暫く見つめていたが、音が鳴き止まない。

周りの人がチラチラと佐藤を振り返る。

電子音が気になるのは佐藤だけではないのだろう。少し迷ったが、思い切って電話にでることにした。

「もしもし」

恐る恐る声を出してみると、すぐに声が返って来た。

かなりあせった女の声だ。

「あ! もしもし! 電話、切らないで下さい。」

電話の持ち主だな、とすぐに察した。ひと呼吸おいてゆっくりと答える。

「落ち着いて下さい。この電話、落とされました?」

「そうなんです。その電話、私のなんです。どこで拾われました?」

佐藤は、手短かに自分のいる場所と自分の連絡先を伝えると、持ち主らしい女性は、5分ぐらいでそこに行くので待っていてくれと頼んで電話を切った。
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