ピーク・エンド・ラバーズ

3



労働でかいた汗は悪くないな、と思うあたり、自分は従順な日本人なのだろう。
バイトが終わり、すぐに電車に乗り込んだ。ちょうど帰宅ラッシュと被ってしまい、混雑の中をやり過ごす。

ケースケくんが送ってくれた住所を確認しつつ、電車を降りてからコンビニに寄って、飲み物とゼリーを買った。

向かうべきは他でもない、津山くんの家である。
学校のすぐ近くのアパートに住んでいるらしい彼は、毎朝電車を乗り換えて登校する私としては、羨ましい以外の何物でもなかった。


『……別れるとかじゃ、ない、よね?』


あれから本当に、一度も会っていない。少なからず緊張しているし、誠実な答えを持ち合わせてもいなかった。

目的のアパートに辿り着いて、躊躇しながらも階段を上っていく。彼の部屋は三階だ。
ここで間違ってないよね、と最後にもう一度確認して、インターホンを押した。

押した後、心臓がばくばくと動き出して、冷や汗も出てくる。
鼓動が速いからか、僅かな時間も酷く焦らされているような気持ちになって、二度目の呼び鈴は随分と早めに鳴らしてしまった。

五秒待ち、静寂。十秒待ち、静寂。
もう五秒待つ前に、留守だろうか、と結論付ける。今日この時間に行く、と連絡をしたわけではないし、まあ当たり前かもしれない。

急に恥ずかしくなってきて、コンビニの袋をドアノブに引っ掛け、踵を返した。
階段を二段ほど降りた時、背後で物音がして振り返る。


「…………加夏、ちゃん?」

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