専務とお見合い結婚!?


専務は結婚して欲しいと言っただけで、私が好きだとは一言も言っていないのだから。


先を読む目がないなと、自嘲してしまう。


誰のせいでもない、傷ついたのは自分の責任。


少しでも夢のような時間を過ごせたんだから、それでいいじゃない。



「……代役にキスまでする事ないのに。バカ専務」



唇に触れながら、少しだけ専務への悪態をつく。


エレベーターの扉が開き、1階に着いた。


きらびやかなホテルのエントランスに、まぶしくて思わず目を細めてしまう。


私には似合わないこの場所に、二度と来ることはないだろう。



「……良かった。誰にも話してなくて」



お見合いの話は誰にもするつもりなんてなかったけれど、本当に話さなくてよかった。


誰も知らないまま、変わらずにまた明日から仕事ができるんだから。



ホテルの回転扉から外へ出ると、私は家に向かって歩き出した。


< 64 / 82 >

この作品をシェア

pagetop