不器用な愛を刻む
『たまにゃあ怪我も悪くねェな』
その夜---
善は店から出て行ったっきり
帰ってくることはなかった。
自分1人しかいない静かな店内で
いつ帰ってくるか分からない彼を
椿は遅くまで起きて待っていた。
(……善様…。)
両親の仇を討ってくれた時から
彼の強さは重々分かっているけれど、
それでも心配が消えるわけではなくて
椿は内心落ち着かない様子で
月明かりが差し込む窓を見つめる。
-------どうか無事で帰ってきて欲しい。
それだけを願って
椿はふと目を閉じる。
『いい子で待ってりゃ
すぐに戻ってくるさ…心配するな。』
何と無く
目を閉じれば
善のそんな言葉が聞こえた気がして
椿は静かに目を開ける。
(……早くお顔が見たいです…善様。)
そして笑みを浮かべる貴方から
またいつものように
名前を呼んで欲しい…声が聞きたいです。