紳士的な狼の求愛
ここ、会社ですから

それから少しした2月の下旬、部長から会議室に呼び出された。

うちの部長は50代の熊のようなおっさんだ。
それで名前が熊田、だなんて、笑うしかない。
私がバイヤーになった時の上司(当時課長)。
部長と一番付き合いが長いバイヤーは、私になってしまった。

「青山、担当部門変更」

何かと思えば、内示だった。
うちの会社は3月から新しい期になる。

「ビューティケア担当」

ヘアケア、ボディケア、オーラルケアなどなど。
ドラッグストアの柱のひとつだ。結構金額大きい。
任せてもらえることは、素直にうれしい。

「さらに、橘が抜ける事態を考え、コスメにも首突っ込んどくように」

……なるほど。
今のビューティケア担当は40代男性だ。
だから、この担当部門変更なのか。

綾乃ちゃんは結婚しても仕事を続けることを宣言してくれたけど、いつおめでたになってもいいように、
むしろ心置きなくおめでたに向かえるように、
できることはしてあげたい。


「青山も遠慮するな。会社のことは気にしなくていい」


……どきっとした。

だって、今、私の頭の中にあるのは、今の部門を後任に引継ぎ、新しい部門の引継ぎを受けることよりも、

……彼のことだったから。



『予約していい? 青山さんが、担当部門外れたら、個人的に会う予約』



今度の部門は、彼の会社と取引はない。


……報告くらい、しようかな……。


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