憑代の柩
探偵II

 


「仕事休めないですよね~、こんなときでも」

「明日の式に時間を空けるのが精一杯だ」

 そう言う衛に上着を渡しながら言った。

「そのあとも空けといた方がいいですよ。
 絶対、何事かあるから」

 何事かってな、という顔で衛は見る。

「ひとつ気になってることがあるんですよ」

 うん? とスーツの袖に手を通しながら、衛は訊き返してきた。

「どうやって、奏があの大学に入ったかってことですよ。

 猛勉強したにしても、ちょっと彼女の学力では無理があるような。

 そこのとこがちょっと気になってるんです。

 奏は本当のところ、あの顔で、貴方に脅しをかける程度のことしかするつもりはなかったのでは?

 それで去るつもりだったんでしょう。

 貴方を好きにさえならなければ」

 自分が別人になり、新しい未来を歩くその前に、姉の復讐を――

 そのくらいのつもりだったのではないか。
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