好きだと気づく30センチ
春の夕陽
 放課後、人のいない四階、オレンジ色。

 静かなはずなのに、私の胸はドキドキと騒がしく鳴っていて、動かない足のせいで立ち尽くす。

「ヒヨコ?」

 そんな私を心配して、クワガタがこちらに一歩近づく。

「どうした、ヒヨコ」

 私を呼ぶ時のクワガタの声も、口の動きも、全部、私にとって特別だ。

 きっと、この鼓動も、気づいたらクワガタの事を考える思考も。

 全部、全部、初めて。

 嬉しい?悲しい?楽しい?苦しい?

「……分かんない」

 分からない、けど、ただ一つだけ、分かった。
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