追いかけっこが、終わるまで。
3. 休日出勤
聞き慣れた着信音で目が覚めた。

電話だ、なんだろう朝から。

重たい目を開けた途端、予想しなかった光景に固まる。私の部屋じゃない。

見慣れない天井。真っ白な壁。寝ているベッドの隣に、裸の男の人。



先輩だ!



昨日のことを一気に思い出して、赤面する。

電話電話、電話を止めなきゃ、先輩が起きちゃうよ!



着信音は小さい。どうやら扉の向こうだ。

玄関にバッグ?置いた覚えないけど?というより昨日車からバッグを持って降りた覚えさえない。

先輩が持って降りてくれたのかな。

どれだけ飽和してたのか、私。



そっとベッドから起きようとして、自分の姿に気づく。

何も着てない。

このまま起きるなんて無理!



軽くパニックに陥っている間に、着信音が止まる。

先輩が目を開けないことを確認して、冷静になれと自分に言う。

よし、着替えてから着信履歴をチェックして、折り返しかけよう。きっと木島さんだ。

床に散らばった服を集めて、ベッドの端に座って身につける。

最近もあったなこんなことがと思い出したときに、気配を感じ枕のほうを振り向くと、不機嫌そうな瞳と目があった。



骨張った大きな手に、右手首を掴まれる。

「また逃げる気?」

怒ってるというより呆れている声で問いかけられた。



「ち、違います。携帯がなってて。服着ないと取りに行けないから」

慌てた私を見上げると、がばりと起き上がって玄関へのドアを開け、赤いショルダーバッグを持って戻ってきた。

なんで、自分だけハーフパンツを履いてるの。ずるくない?

思ったことは口に出さずに、細身だが筋肉質な上半身に見惚れたことにも気づかれないように目をそらして、バッグを受け取り携帯を取り出す。



着信は、予想通り木島さんからだった。

トラブルだ。急な通訳アテンド依頼が前にもあった。

でもよりによって今日?すぐに帰らなくちゃいけないかも。

また逃げるって言われちゃうのに。
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