追いかけっこが、終わるまで。
5. 美和
月曜は久々に1日オフィスにいて、先週の残務整理や引き継ぎやらで忙しくしていた。

ランチも自席で軽く済ませていると、後ろから美和に襲われた。

「そろそろ話、聞かせて欲しいんだけど」

両肩に手をかけ、耳元で低くすごまれる。

「聞いて欲しいの間違いじゃないの?速人くんとはどうなったの」

椅子ごと回転して振り向きながら、反撃しようとたずねても、全くひるまない。

「どうもなんないわよ、今更。光輝くんのためにリサ呼び出しただけなんだからさ。いい雰囲気だったじゃない?どうにかなった?」

好奇心に目を輝かせて聞いてくる。



美和は速人くんから、何も聞いてないんだ。

多分、速人くんも詳しく知らずに、純粋に私達の仲を取り持とうと思ってる。

どこから話せばいいか、どこまで話していいか、そもそも彼はなぜ黙ってるのか、一瞬のうちに考えることが押し寄せてきて、何も言えなくなる。

微妙な表情を察した美和が、言葉を続ける。

「軽そうな見た目だけどさ、意外とまじめらしいよ、速人が言うには。リサのこともかなり本気で気に入ってるって」



美和は、この年まで1人しか恋愛経験のない私が、光輝くんのアプローチに応えることを迷ってるんだと思ってるんだろう。

ある意味、当たってるんだけど。彼と出会った日にとっくにどうにかなっちゃってるって言ったら、驚くんだろうな。

でも、相談するなら美和しか考えられない。



「美和、今日ごはん食べに行ける?」
 
今ここで話せる内容じゃないことをほのめかすと、美和がにっこり微笑んだ。



世話好きなんだよね。同期と言っても年下の私を、なんだかんだとかまってくれる。

次に付き合うなら美和みたいな人がいいの、と以前言ったら、ごめん、そっちの趣味はないからと、にべもなかった。

そういう突き放したところも好き。

明るくて強引で優しい、私の親友。
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