リーダー・ウォーク
ハウス!

何かあったときのためにとしれっと連絡先を交換したはいいが
稟から松宮へ電話することなんてあるのだろうか。
いくら稟が犬のことを教えたりするとはいえ、職場で犬を迎えてくれたお客様であり、
稟にとっては指名してくれる大事な常連さまであることに違いはない。

あれからすぐ松宮相手に偉そうなことを言うなとオーナーから厳重に叱られた。

彼は怒りはしなかったけれど、はたからみたらかなり偉そうな態度だった。

そこは稟も冷静になってから深く反省をしたけれど。

「次来たら何かサービスをして。チワ丸のご機嫌を取れば松宮様も
喜ぶでしょうし。そもそも予約は入ってるの?」
「はい。キャンセルの連絡も入っていません」
「そう。よかった。いい?もう二度と楯突くような事は言わないでね」
「……はい」

事情はきちんと話をしたもののそれよりも上客を怒らせるほうが良くないと。
松宮家は政治的にも経済的にも群を抜いて上位のクラスに位置するという。
田舎から出てきてひたすらトリミングに必死な稟にはその辺は乏しい知識。

何をサービスしようか考えつつ、

他のこともしていたらあっという間に日が経過し。


「今日もよろしく」
「いらっしゃいませ。お待ちしてました」
「何時ものでいいからさ、男前にしてやってよ」
「わ。チワ丸ちゃんまた大きくなったね」

可愛かったキャリーが一回り大きくなり中に入っているチワ丸も
しっかりした体つきになってきた。顔も凛々しい。
相変わらず稟にしっぽをふって甘えてくるけれど。

「デブってはねえんだが。やっぱオスだからかな」
「のびのびと広い所で暮らしていると大きくなりやすいとか聞きますね」
「げ。じゃあ、チワ丸ライオンくらいでかくなんの?それはちょっと困るな」
「ははは。流石にそこまでは」
「わ、わかってるよ。冗談だよ。冗談」

でも若干本気っぽいトーンで焦って、
稟に言われて恥ずかしそうにしているのがちょっとおもしろい。

「ではお預かりしますね。何時もと同じくらいの時間で」
「あ。ああ。…なあ、あんた上がりは何時?」
「今日は6時です」
「ん。じゃあ、そんくらいにくるから。チワ丸みててくれ」
「今日も何か会議が」
「そんなとこ。いったん家に帰るよりあんたに預けるほうがいい」
「…でも、仕事があるのでつきっきりは」
「わかってる。適当に待たせてやってくれ」
「はい」

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