女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
第1章 沈黙

1、私は婚約者



 一度起きて開けた窓から、初秋の風が吹き込んでくる。

 カーテン代わりにかけた私のお気に入りの布が揺れて光を零す。

 閉じた瞼にその光を受けて、ゆっくりと目を開けた。

「・・・・・何時・・・?」
 
 独り言は空気にまぎれて消えた。寝転んだまま手を伸ばして携帯を開く。

 午前9時43分。

 私は携帯を閉じて、またタオルケットにくるまる。今日は休日、起きて誰かの世話をしなければならない身分でもない。

 この部屋の窓から見える職場には行かなくてもいい日なら、もうちょっとゆっくり・・・。

 意識を再び深いところにやろうとしたら、ピンポーンとチャイムが鳴った。

 勿論無視する。

 用があるならまた押すだろう、と思っていると、がちゃりとドアが開く音がした。

 私はタオルケットから顔を半分出した状態で、目を閉じる。

 この部屋の鍵が2つ付いたドアを開けられる人間は二人しかいない。一人は私で、もう一人は――――――――

「・・・何だ、まだ寝てるのか」

 ぼそりと声が聞こえた。

 その低い声はよく響いて、私の耳までハッキリと届く。タオルケットに隠れた口元を緩ませて私は笑った。

「――――――まり」

 声の主が屈みこんだ気配がした。

 私はゆっくりと瞳をあける。そしてタオルケットから腕と顔を出して、うーんと伸びをした。

 さらけ出された首筋やデコルテラインを彼が見ているのに気付いていた。


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