女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
第1章 異動

1、さようなら、魚屋さん


 春。

 私は縁側で寝転び、昼間っからビールを飲んでごろごろしている。

  まだ若干冷たい風で冷えないように、厚手のカーディガンを着てもこもこのソックスをはいた足を立て、それをたまにパタパタと動かしていた。

 はあー・・・極楽。

 やっぱり人生はこうでなくっちゃ。

 この年明けには私は目出度く人妻となり、最近では大学の時からの男友達である超イケメンの楠本孝明が白雪姫のような外見の常識的でマトモな女と無事に結婚した。

 そして、卒業入学引越しなどの『春の繁忙期』を終え、百貨店もやっと落ち着いてきた頃だった。

 折角自分好みに自力で改装したのに半年しか住まなかった職場から10分のアパートを出て、同じ大家さんが持っていた平屋の一軒家を格安で譲ってもらい、私達は夫婦で移り住んだ。

 ここも、職場の百貨店は近い。

 しかも3LDKで、平屋で、何と素敵な庭までついていた。

 私を気に入ってくれていたらしい金持ちの大家さんが、もう使ってなくて傷むばかりだからと恐ろしく安い金額で売ってくれたので、両親が私の嫁入り資金にと貯めてくれていたお金も余り、それでまた自分好みに改装したのだ。

 そして今いるこの縁側が私のお気に入り。

 ここでビールを飲むのが最高のひと時。

 私は小川まりと言う。・・・・訂正、戸籍上は桑谷まりになったんだった。なんせ独身からいた職場ではまだ小川姓で仕事をしているので勿論そう呼ばれるし、桑谷さんと呼ばれてもついスルーしてしまうのだ。


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