イジワル同期とスイートライフ
できるものなら
「どなたか控え室の救急箱、ご存じないですか?」



シーバーで問いかけつつ、念のためもう一度控え室じゅうを探す。

とはいえ収納もない、こぢんまりした部屋なので、やっぱりない。



『黒沢です、ごめん、ホールのほうで使ってたの、今届けてもらうね』

「ありがとうございます」



いてて、と負傷した指をかばいながら、ペットボトルのお茶をコップに注いだ。

腰を下ろす間もなくノックされ、ドアが開く。



「あっ、すみ、ませ…」



全部言えなかった。

久住くんだったからだ。


向こうも私だとは知らずに来たらしく、一瞬ためらいを見せた。

会議も二日目の今日、スタッフは全員揃い、久住くんはようやく本来の仕事である、お客様のアテンドに時間を使えていた。

私は運営スタッフなので、バックヤードと会議会場の往復だ。

たまに見る久住くんは、外国の人と握手をしたり談笑をしたり、そこにまた「久住サーン」と声をかけられたり、とにかく忙しそうだった。

担当する市場だけを見ていればいい営業課の営業員と違い、久住くんは全市場に、かかわった相手がいる。

"引っ張りだこ"を絵に描いたような状態で、ちょっと、別世界の人だった。



「…黒沢さん手一杯みたいだったから、引き取ったんだけど」

「ごめんね、久住くんも忙しいのに」



机に救急箱を置いた久住くんが、ふと私を見てぎょっとした。



「どうした、それ」

「え? え、きゃあ!」



急に近寄ってきたかと思うと、いきなり私の着ていたジャケットをはぐ。

半袖のカットソーをインナーにしていたため、二の腕までむき出しになった。



「ちょっと、なに!?」

「あ、これ、外側か?」



私の脇腹のあたりを覗き込んで、ジャケットの中と外を見比べている。



「なにかある?」

「なにって、これ」

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