イジワル同期とスイートライフ
彼の、普段は上げている前髪が額にかかっている。

そのせいで妙に幼く、親しみやすく見える。

その顔が、ふっと困ったように笑った。



「飲みすぎたよな」



まったくもって同感。

バスルームに消える綺麗な背中を見ながら深々と同意した。

別に記憶が飛んでいるとか、そういうわけでもないんだけど。

いくら考えても、わからない。

──なんでこんなことになったんだったか?





「いや、それなら最初から宿泊先を分けて割り振ったほうがいい」

「まだ定員を越えるとは決まってないんですが」

「海外の特約店は、こういうことにはいい加減なので、直前にどっと予約が入る可能性が高いです。そうなってからこぼれた国だけ別ホテル、というのは混乱する」



参加者リストを眺めながら、久住賢児(くずみけんじ)くんがきっぱりと言った。

それから隣に座る、彼と同じ海外営業部の先輩社員と相談を始める。



「これ、東南アジアから返答来てないじゃないですか、あそこは人数読みづらいですよ、別にしましょう」

「だな、最悪の場合、"喜び組"も連れてくるもんな」

「文化違いますよねえ…」



外した眼鏡のつるを噛みながら、難しい顔で息をつく。

今朝、コンタクトレンズの替えを持っていなかったため、よく見えないとぼやきながら泣く泣く眼鏡で出勤していた。

初めて見た眼鏡姿は、本人が気にしていた通り、確かに真面目そうに見えすぎるかもしれない。



「あと国内営業さんで作ったプレゼン資料は、我々にも確認させてください」

「なぜ?」



会議室の長机の、私と同じサイドに座った、すなわち国内営業部の女性が噛みつくように聞き返す。

久住くんは気にする様子もなく、淡々と答えた。

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