イジワル同期とスイートライフ
嫌じゃないけど、と言う暇もなく、うつぶせにひっくり返された。

性急に身体が重なってきて、思わずシーツを握りしめる。



「もう、なに…」

「焦らされたくないって言うからさ」

「都合よく、とらないで」

「嫌いじゃないだろ、こういうの」

「好きでも…」

「そろそろ黙ろっか」



言いたいことは山ほどあれど、肩を食まれる甘い痛みに消えてしまった。

口の中を探る指を、噛んでやることだけは忘れなかった。



淡い明かりで目が覚めた。

久住くんが、ローテーブルでPCを開いている。

暗い部屋の中、液晶だけが光って、眼鏡をかけた横顔を照らしている。

私はベッドから出てキッチンに行き、コーヒーをいれた。



「仕事?」

「あ、サンキュ」



カップを受け取り、口をつける間も、目は画面を追っている。

こういう気をつかわれるのに、慣れているように見える。

彼女がいたのは、そう遠くない昔なんじゃないかと、なんとなく想像した。



「なにかトラブル?」

「いや、ちょっと覗いたら、めんどくさいメールが入ってて…週明けまでほっとくのも怖いから」

「向こうももう、終わってたりしないの?」

「時差があるから、まだ稼働中…」



集中のかたわら、つぶやくように答えてくれる。

複数の資料を確認しながら、慎重に打っている返信は英語だ。

私とはまったく異なる世界で、仕事をしている人。

邪魔をしないよう、先に寝ていようとも思ったんだけれど、妙にもったいなくて、自分の分のカップを持って隣に座った。

彼はこちらを見もせずに、当然のように片手を伸ばし、私の肩を抱き寄せる。

あいているほうの手だけで器用にキーボードを打つのを、しばらくの間、ぼんやりと見つめていた。


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