イジワル同期とスイートライフ
「てわけで、なんかもう無理だからしばらく泊めて」

「いいよ。引っ越しは考えないの?」

「考えてる。お前んちにいる間に部屋探すよ。でも今忙しくて引っ越す暇もないんだ。ちょっと長く厄介になったらごめん」

「うちは全然かまわないよ、はいどうぞ」



ベーコンとトマトのトーストサンドを出すと、久住くんが遠慮なく手を伸ばす。

ひと口かじりついてから、サンドの断層をまじまじと眺め、「うまい」と言った。



「なんかカフェみたいな味する」

「チーズをクリームチーズにするだけでそれっぽくなるのです」

「女子だな」



女子だよ。

身を寄せる先が確保できて安心したのか、彼はぺろりと食パン4枚分をたいらげると、眠いと言ってベッドに上がった。

そんなわけで私と久住くんは、一緒に暮らすことになった。





「乃梨子ちゃん、電話だよ、久住くんから」

「はい」



複合機の前にいた私は、呼ばれてデスクに戻る。

決算見通しの出力を確認しながら、受話器を肩に挟んだ。



「六条です」

『あれ、国内営業って内線、携帯じゃないんだっけ?』

「違うよ、固定電話。番号も人数分ないもの」

『俺この番号、お前の名前で登録してたわ』

「直しといてくださいな」



社内にもこのように、国境がある。

仕事が違えばインフラも違い、早い話が、新しいシステムや機器は海外部門に優先的に入り、国内部門は後回しなのだ。



『だからって俺らを恨むなよ』

「私は恨んでないよ、地雷だから気をつけてって話」

『なるほどな』



電話の向こうで、うなずいているのが見える気がする。



「で、なに?」

『あのさ、登壇する特約店から、資料について要望が来てるんだ』

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