イジワル同期とスイートライフ
今さらの好き
「脱いだ服をまた着るときってさあ」



シャワーから出た久住くんが、服を身に着けながらぶつぶつ言っている。



「パンツより靴下のほうが抵抗あるよな」

「ストッキングの比じゃないと思う」

「夢を壊すこと言うなよ」

「履いてみればわかるよ」

「そんな趣味ねえよ」



くだらない会話をしながら朝の準備をした。

と言ってもまだ日が出たばかりの6時前。

一度、家に帰らないといけないからだ。



「抵抗と言えば、ツインに泊まっておいて、片方しかベッドを使ってないのが丸わかりなのが、私としては、ちょっと」

「じゃあ、そっちのベッドもカバー剥がしとけば」

「それもちょっと」

「どうせチェックインのときに、こいつらやりに来てんなってフロントは思ってたよ」



そうか…。

ゲストブックに書いた住所も隣の区だし、終電後でもないのに仕事帰りの男女がツインなんて、どう考えても目的はそれしかない。

ずいぶん恥ずかしいことをしたなあ、と勢い任せの所業を振り返った。

身体のあちこちに、突っ張るような痛みがある。



「凝ってんの?」



肩のあたりを揉んでいたら、不思議そうに訊かれた。



「痛むの。手ひどくされたせいで」

「ああ、よがり疲れ」



最悪な言葉選びをした背中を、バッグで殴った。

彼は気にも留めず、ネクタイ、とつぶやきながら室内を歩き回り、スタンドタイプの照明の足元に絡まっていたのを拾い上げる。

こっち向くなよ、と念じながら、赤くなった顔をもとに戻そうとした。


ゆうべの久住くんは、どこかおかしかった。

手ひどくと言いはしたけれど、乱暴されたわけじゃない。

ただどうにも容赦がなかった。

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