イジワル同期とスイートライフ
「お前の見た目とか服のセンスとか嫌いじゃないし、バカでもないの知ってるし、めんどくさくもなさそうだし、ゆうべの感じでは相性も悪くないから、俺らがつきあうのは別に変じゃない」

「はあ」

「俺としてはつきあいたい。というわけで、お前がはっきりノーと言うまで、俺らはつきあう、いいな」

「ええっ?」

「お互い勝手に特定の相手作ったりするのは、なしだ。俺はお前を彼女と思って生活するし、お前もそうする」

「横暴でしょ!」

「嫌ならノーと言えばいい、いつでも聞く」



そのとき、4名掛けのテーブルにいたほかの会議参加者たちが立ち上がるのが見えた。

久住くんはさっと煙草を灰皿に捨て、伝票を取って席を立つ。

結局食べ終えることができなかった私は、口の中のものを水で流し込み、急いで後を追った。



「久住くん、本気なの」

「冗談でこんなこと言わない」

「別に私、ゆうべの責任とれとか言わないし、要するに二度目が起こらなければいいわけでしょ?」



それなら別に、こんなアクロバティックな方法をとらなくても、対処のしようがあるんじゃ…。

会計をさっさと電子マネーで済ませてしまった彼に千円札を渡しつつ、最後の説得を試みる。

受け取りながら、久住くんがじっとこちらを見た。



「お前、ほんとにそう思ってる?」

「え…」

「俺ら、二度とないって、確信持って言える?」



熱い肌。

焦らす指。

ねだってみな、と意地悪く見下ろす微笑み。

真昼間のオフィス街の、行き交う人並みの中、突然そんな記憶が鮮明によみがえってきて、動揺した。

ちょっと、静まってよ、自分。



『言わなきゃわかんないぜ』

『や…』

『やめる?』

『やめないで』

『なにを?』

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