イジワル同期とスイートライフ
「で、乃梨子ちゃんは大丈夫なの」

「え?」

「彼氏の元カノと仕事するってことでしょ?」



…あ!

そうだよ、幸枝さんは、知っているんだ。

しかも…。



「…あの、すみません、なんか」

「謝らないでよー、こっちこそごめんね。別に邪魔しないから」



笑って手を振る姿から、なんとなく、幸枝さんは本気だったんだと感じた。

合わせる顔がない。



「むしろ、なんで言われるまで気づかなかったんだろ。そういう勘はいいんだけどね、私」



ぎくっとした。

幸枝さんの勘は、正しいです。

たぶん、私たちのつきあいの特殊さが、気づかせなかったのだ。

にじみ出るようなものが、なにも間になかったせいで。



「ストレス溜まったら、愚痴聞くからね」

「やっぱり溜まりますかねえ」

「まあ、心穏やかではいられないよねえ、普通」



でも幸枝さんは、花香さんと久住くんの関係には気づいた。

もう終わった関係なのに、どう見ても仲よさそうじゃないのに、気づくだけのなにかが、あのふたりの間にはあったんだ。

食べかけのお皿を見下ろして、急に沈んできた気分に戸惑った。

私はいったい、なににこんなに打ちのめされているんだろう。



「明日も天気よさそうだね、久々に遠出しようかなー」



光の射す窓の外を見て、幸枝さんが気持ちよさそうに伸びをする。

この週末が終わったら、次の週末にはもう、久住くんは出ていってしまう。

さみしい、くらいなら、伝えても許されるだろうか。

どのくらいの頻度で、今後は会えるんだろうか。


ああ、そうだ。

なにひとつ不満がないなんて、嘘だ。


嘘だよ…。


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