イジワル同期とスイートライフ
出せない言葉
抱き合わない夜を数えるようになっていた。

数が増えるごとに、うまく説明できない不安が溜まっていく。

ねえ久住くん。

私たち、なんでこういう関係になったんだっけ。



「寝た」

「知ってる」

「劇場でヒューマンドラマとか…」



サイズ感がもったいない、とよくわからない文句を垂れながら、昼間のカフェで久住くんが伸びをした。



「寝るほうがもったいないと思います。面白かったのに」

「俺の金なんだから自由です」

「なんでもコスト換算? さみしい価値観!」

「お前、その言い方な…」



言いかけて、目が泳ぐ。

そんな彼をじろりとにらんで、傷つきかけた心にふたをした。

花香さんみたい、と言おうとしたんでしょ。

最低。



「謝ってもいいよ」

「悪い…」



ほんとに謝っちゃうしなあ。

自分でも戸惑ったようで、パーカーのポケットに手を入れて、そわそわしている。

再会してからこっち、頭の中が花香さんでいっぱいなんだろう。

それってどうなのよ、と思いはするものの、まあわからないでもない。

彼女のキャラは、なかなか中毒性がある。



「飲んだら行こうか、久住くんも帰らないとでしょ」

「今日中に片づくかなあ」

「手伝うって言ってるのに」

「けっこうです」



どれだけ秘密があるんだろう。

遊びに行った限りでは、物が少なくて整理されている、いかにも久住くんらしい部屋だった。



「俺、今日はあっちで寝るわ」

「わかった」

「ひとりで眠れる?」

「眠れるよ」

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