長い春にさよならを
長い春にさよならを
「貴幸(たかゆき)、今日も遅いなぁ……」

 美晴(みはる)はリビング・ダイニングの掛け時計を見上げて、何度目かのため息をついた。針は午後十一時三十五分を指している。

(大学時代から付き合い始めて八年、同棲してから五年にもなれば、クリスマスイブだからって早く帰ってきたりはしないかぁ)

 美晴はダイニングテーブルの椅子から立ち上がった。

(私、来月の誕生日が来たら三十歳になるのに……。お互いまさに空気みたいな存在になっちゃったし、長すぎた春、決定かな)

 美晴はテーブルの上から、紺色のリボンのかかった長方形の箱を取り上げた。お互い三十歳になる今年、もう一度恋人らしい気持ちを思い出せたらなにか変わるかもしれない。そう期待して用意したものだったが、今日は渡せそうにない。

 箱をベッドルームのクローゼットにしまい、バスルームに向かった。服を脱いで中に入り、シャワーを浴びながら肩を落とす。

(このままずるずる同棲してても……先は見えないよね)

 数日前、母から電話で『あなたたち、いつまで同棲を続けるつもりなの? 夫婦としてやっていけそうにないなら、手遅れになる前に別れたら?』と言われてしまった。
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