映画みたいな恋をして
「はい・・・」



聞こえてきたのは、いつものように無駄のない用件だけの短い会話だった。
挨拶の一言もなくいきなり本題に入る無礼も、いつものこと。
自分より何もかもが上であると認めた相手でなければ敬わない。
そこが彼らしいと言えばそうなんだけど・・・
私は苦笑しながら携帯を吾郎へと差し出した。



「は?俺?」
「そ」
「誰?」
「ん~ 『M』ってところかしらね?」



我ながら言いえて妙だと、クスクスと笑みがこぼれた。
吾郎は怪訝な顔で「Mって007のかぁ?」と呟きつつ携帯を耳にあてた。



『俺様に居場所を探させるとは、オマエも随分と偉くなったもんだな』
「はい?」
『ご丁寧に携帯の電源まで切りやがって。何をしてやがる!』
「・・・へ? アキラ?」




傍らの私にも聞こえてきた電話の相手の声は、そうとうご機嫌が悪い。
007で言えば、『M』  そう、ジェームズ達情報部員のボス。組織の最高責任者だ。
杉本アキラも吾郎にとっては似たようなもの。テニス部の部長、泣く子もだまる鬼部長だ。




「な、何って・・・今日は練習 休みやろ?」
『馬鹿野郎!休みは来週だ!』
「う、嘘!」
『さっさと出て来い!30分でこなかったら来週の休みは無いと思え』
「そんな殺生な~~!」




携帯を放りだして身支度を始める吾郎を横目に
私は携帯を拾い上げ耳に当てた。




「もしもし?」
『・・・真奈』
「ん?」
『悪いが、そこの馬鹿を連れてきてくれ』




年上の、しかも母校の先輩に向かって相変わらずの物言いなアキラに
大げさにため息をついた後で答えた。




「ねえ、アキラ。仮にも私はな先輩のよ?もう少し敬意をはらったモノの言い方できない?」
『無理』


・・・そうだった。コイツにそんなことは通用しないのだった。
生意気な、でも憎めない、愛しい後輩。
もしも吾郎という存在がなければ
こうして一緒に朝を迎える相手になっていたかもしれない。

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