ビター・アンド・スイート

新進気鋭の洋菓子店。

「なあんだ、自分で脱いじゃったの?」
と帰りのコーヒーショップで後ろに並んだシロタさんが私の顔を覗く。
私は返事をせずに、カウンターに向かってコーヒーカップを置いた。
隣に立ったシロタさんは機嫌の良い顔だ。
「売上がよかったの?」と聞くと
「まあね。」と私の顔を見る。
「『美咲』っていっつも売り切れだねえ。1回食べてみたいのに。」と言うと、
「鎌倉の本店ならいつでも食べられる。」と言うので、
「東京じゃないんだ。」と驚くと、
「そうなんだよねえ。不便な田舎。車がないと行けない。」と言って笑う。
「そうなんだ。まあ、うちも、山下公園の近くっていうだけで、
観光スポットからは外れてるかな。
山下公園の前の大通りなら、まだしも。」と言うと、
「あそこって、ホテルとか、おしゃれな店も並んでるよな。」
とシロタさんはちょっと考え、
「観光客も多い。赤い靴号(観光バス)のルートだし、
山下公園にはシーバスもある。」とブツブツ言って、
「ハヅキ、サンキュ。」と頬にキスをして慌てて出て行った。

コラ、勝手にキスするな!と心の中で大声を出した。
まあ、いいか。
頬や手首くらい。
オトナなんだから。
そう思いながら、ゆっくりカフェオレを飲み干した。
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