興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
☆☆
…はぁ、…返す言葉も見つからなかったから急いで前から逃げちゃった。まさか、答えてくれるなんて思いもしなかったから。なんとなく、あのまま濁されてしまうと思ったのに。
……マンションか…一人でなのかな…御家族と一緒になのかな…。

私、藍原 紬。見ての通り、名前、漢字が、何だか古風なんです。
この会社に入って五年になります。事務職です。
女性で入社五年ともなれば、解りますよね、微妙な位置なのです。
先月は寿退社する後輩の送別会がありました。
そして必ず出る話題です。
『藍原さんは、まだ結婚されないのですか?』
遠慮のない発言です。
…はい。私は見事に予定がありません。でもこの言葉、嫌味な言葉というものでもないのです。
その訳は、何をいつ誤解されたのか私自身が解らないのですが、不思議なことに、私には恋人が居る事になっているのです。驚きですよね。
最初は、流石に誤解は解かないと、と思っていたモノです。居ないんですから。
それが、ま、いいかって思っている内に、ずるずると…、一年、二年過ぎ…。
あっという間に今に至ってます。
歳月人を待たず、とはよく言ったものです。…文字通り、月日が流れるのは早いのです。
お陰で、今ではもう、いつ結婚してもおかしくない状態だと思われています。それゆえのさっきの言葉です。
中々結婚に至らないのは、私が相手を待たせているんじゃないか、くらいの事も、真しやかに噂されています。
誰が結婚しようがしまいが、藍原さんはいいですよね、変な焦りもなくて、羨ましいです、と毎回言われる始末。

…いや、焦ってます。焦りつつあります。私、27歳になりますから。噂とは真逆…恋人と呼べる人は居ませんから。結婚を待たせてる?とんでもない。
そもそも…どうして、そんな認識をされたのか…。さっぱり原因が解らないのです。

すなわち、現状のままでは、この会社で相手を見つける事は無理だという事になるのです。
部屋と会社を往復する生活。必然的に会社以外にも出会いがある訳もなく…。このままでは仕事が好きで辞めません、みたいな事に成り兼ねない状態です…。
だから、待たせてるって事にも、まあ、なりますよね…。
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