興味があるなら恋をしよう−Ⅰ−
★☆☆
「藍原、もう少し待っててくれるか?」

「はい」

水曜が来てしまった。私は、今、課長の仕事が終わるのを自分のデスクで待っていた。
課長は不思議だ。
ううん、これが普通なのかも知れない。…疚しい事がないからだ。
こっそりと待ち合わせをする事も無く、ごく自然に私とご飯に行くことを公然にしている。
…意識しているのは私なんだ。

男女とは言え、課長は軽く誘ってご飯に行く事もある。励ましのためにだ。
何もこだわらなければ誰も何とも思わない。それは、仕事上の事だと解っているからという事もある。
普通に、『ご飯ですか?俺も今度奢ってくださいよ』、なんて話が出る。
その程度と今日のこれも、違いはない、同じモノだ。


「…終わった。藍原、待たせたな、ごめん行こうか」

「はい」

「じゃあ、悪いが俺は今日は帰るぞ」

「お疲れ様でした」「お疲れ様でした」

「さあ、行くぞ」

「はい」

「車で行くから駐車場な」

「あ、はい」


一緒に…エレベーターに二人だけで乗るなんて…。
課長、アルコールは飲まない事にしたのかな。
まだ週の真ん中だし。ご飯食べて終わったら、車の方が早く帰れるものね。

「俺さぁ、酒、強く無いんだ」

「…あ、はい。え?あれ、そうでしたっけ」

あ、いけない。何だか言葉遣いがラフになっちゃった…

「…すみません」

「ん?昔、飲み過ぎて記憶が無くなった事もあったし。何してたか、暴言を吐いたか、…覚えて無いって恐ろしいもんだぞ?」

「あ、それは恐いですね」

「…色々…やらかしている」

「そうなんですか?」

「…ああ。若気の至りと、許して貰えてるかどうか…」

ふ~ん。余程の事があったのかな。
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