イジワル御曹司と花嫁契約
出会った時から、女として見ていたよ
東郷財閥の御曹司の婚約者のふりをすることになってから三日が経過した。


 母の手術のことや転院についてなどで、かなり頻繁にメールや電話のやり取りをしている。


内容はいたって事務的なのだけれど、男性とこんなにたくさん連絡のやり取りをしたことがないので、メールや電話が来るたびに胸の奥がむず痒くなる。


 しかも、奴はごく自然に私のことを胡桃と呼び、「彰貴と呼べ」と呼び方まで指定してくる。


対外的には婚約者なんだから、私も下の名前で呼ばないとおかしいかと思って、「彰貴」と呼ぶようになったけれど、名前を呼ぶたびに一々照れてしまう自分がいる。


 男の人と付き合ったことがないのに、婚約者なんて無理があるだろうと思うけれど、やるしかないんだから仕方ない。


 今日も、お風呂を終えて暇を持て余している時に携帯の着信音が鳴った。


ディスプレイを見て彰貴だと分かると、なぜか口元が緩み、少し心が踊った。


「もしもし」


「もしもし、胡桃?今何してた」


 こういう本物の恋人同士みたいな言葉のかけられ方をされると、免疫力のない私は自分の意思に反してドキドキしてしまう。


相手は腹黒冷血男。


ドキドキするような男じゃないと自分に言い聞かす。
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