溺れる恋は藁をも掴む

20歳の恋

 20歳と言ったら、大人として認められる歳。

 短大を卒業して、会社に就職した。

 働くという事を本格的に知り、今までの学生気分が吹っ飛ぶほど、仕事を覚えたり、失敗して上司に怒られたり、終わらない仕事を抱えて残業したりと、様々な経験をする事になる。

 今まで親に養って貰ってきた事が、当たり前じゃあない事に日々気づかされていった。


 1円のお金を稼ぐにも、この社会という厳しさの中で、自ら労働して得るという事が、いかに大変な事なのかを実感せざるを得なかった。


 週末に憂さ晴らしで、お酒を飲む大人の気持ちがしみじみ分かる。


 ビールの苦みにまだ慣れない喉。
なのにお疲れ様の一杯は、めちゃ美味く感じる謎。


 まだ、不恰好に大人を気取りたい二十歳の時、私は誠治さんを知り合った。

 誠治さんは私より5つ年上だったから、社会人先輩であり、大人の男性にも見えた。



 夏の暑さが遠のき、秋が深まりつつある9月の下旬。

 お天気に恵まれた土曜日。



 約束通り、東京駅の大丸前で落ち合う。


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