再生する
6:戸惑う金曜日



 金曜日。朝からどうも空の機嫌が悪いようで、灰色の雲の隙間から雨が降ったりやんだりを、ひたすら繰り返していた。

 こんな天気の日は気が滅入る。それは昔から雨に良い思い出がないからだろう。

 初恋が終わったのもこんな雨の日。初めて付き合った彼との初デートも雨で、水たまりを通過した車に泥水をぶっかけられ、彼に汚物扱いされた挙げ句「泥かぶったやつと一緒に歩きたくない」と置いて帰られた。
 以前勤めていた会社の入社式も雨に降られて、濡れた服を見て興奮した上司に、初日からセクハラされた。長いこと付き合っていた彼の浮気現場を目撃したのも、朝から小雨がぱらつく日だった。


 今朝から神谷さんとは話をしていない。
 昨日のこともあるし話しかけづらいなあと様子を窺っていたら、神谷さんの機嫌が良くないことに気付いた。

 伏し目がちの沈んだ表情で、ただひたすら雑務をこなしている。

 何か問題があったのか。それとも、神谷さんも昨日のことで気になることがあるのか。

 そう思っていても、昨日のことが気になっているわたしは「どうしました?」なんて声をかけられなかった。


 日が暮れる頃になるとようやく雨もやんだようで、店の外を行き交う人たちも傘をたたみ、使い道がなくなってしまったそれを鬱陶しそうに持っていた。
 お向かいにある輸入雑貨の店から、傘を持った店員さんが飛び出して行くのが見えた。きっと今買い物をしたお客さんが、早速忘れて行ったのだろう。

 そういえば電車の中で誰かの傘が足を引っ掻いてストッキングが派手に破れ、彼に「だっさ……」と言われたこともあったっけ。

 本当に良い思い出がない。やっぱり雨は苦手だ。

 憂鬱な気分でため息をつくと、神谷さんが顔を上げ「何かあった?」と聞いてきた。

 それはこっちの台詞だ。神谷さんこそ朝からずっと口を閉じていたのに。

「雨だなあって思って……」

 店の外に視線を戻しながら言うと、神谷さんも同じように店の外を見て「そうだね」と呟いた。

「雨だと洗濯できないしね」

「ですね……。きっと明日は風が吹くでしょうし……」

 そういえば、今朝も神谷さんは洗濯をしたのだろうか。ハンガーも、部屋干し用の洗濯ロープも買ってあるから、洗濯できなくはないけれど。
 それも聞けないくらい、今日は店内の雰囲気が重かった。

 約束の日まで今日も入れてあと三日なのに。こんな気分のまま、その日を迎えてしまってもいいのだろうか。

 もう一度ため息をつくと、わたしの視界に見知った人物が入って、思わず「へえっ?」と間抜けな声が出た。

 その人物はウィンドウの外から店内を見、わたしの姿を確認するとにやりと笑い、そして真っ直ぐ、店内に入って来た。

「久しぶり、詩織。元気そうで安心したよ」

「……孝介くん」

 それは、二年前まで付き合っていた、元恋人だった。




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