いつかそんな日がくればいい。【短】
君の涙は

お囃子のBGMがすっかり遠くに感じる。


聴こえてくるのは夏の虫の音色と、風が吹くたびにざわめく大きな木の葉の音。


ご神木…かな?


随分お祭りから離れてしまったみたいだ。



「思ったより、足が速いんだね」



そう言う俺の声に、彼女の肩がピクッと揺れた。


ご神木と思われる大きな木に手をついて、息を整えている彼女のこめかみからは、一筋の汗が流れ落ちる。


下駄を履いている足からは、走ったせいで擦れてしまったのか、鼻緒の当たる部分が血で滲んでいた。


「白田さん…」


「ねぇ。松田君、知ってる?」


「え?」


「初恋ってね、叶わないジンクスがあるの」



確か、クラスの女子が前にそんな話をしてたっけ。


“それなら適当な奴で初恋済ませちゃいたいよねー!”とか、恐ろしいことを言っていたからよく覚えてる。


「…うん。知ってるよ」



「黒崎君はね、あたしの初恋なの。実は同じ小学校でね、その時から彼のことが好きだった」



小学生の時からということは、少なくとも三年は想っていたことになるのか…。


その年月を思うと、胸の奥がチクリと痛む。



「吉川さんと幼馴染みだってことも知ってるの。だけど、どうしても諦められなかった。
だから今日、彼がお祭りを一緒に回ってくれるって言ってくれて、あたし…もしかしたらって……」


「…うん」

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