じれったい
6・わからずや
明けない夜はないと、誰かが言った。

「――もう朝か…」

例え昨日何が起こったとしても、朝は必ずきてしまうものである。

カーテンのすき間から差し込んできた光に躰を起こすと、いつものように会社へ行く準備を始めた。

今日ほど常務室へ行くのが怖いと思ったことは、これが初めてである。

「おはようございます、玉置常務」

「おはようございます、矢萩さん」

あんなことがあった翌日だと言うのに、玉置常務はいつも通りだった。

何だか拍子抜けをしてしまった。

だけど、どうして玉置常務は私にキスをしてきたのだろう?

そう聞きたいところではあるけれど、いつも通りの様子の彼に私は何事もなかったかのように振る舞うことにした。
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