御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
あなたのためにできること
久しぶりの家族との再会と、会社再建の具体的な話し合いを終え、帰途に就いたのはもう陽が傾いた頃だった。

私が一番恐れていた、怜人さまとの同居に関する祖母の反応は意外なことに寛容で、安堵の表情を浮かべていた怜人さまより、私の方が肩すかしだ。

家族に見送られて家を出た後、現地で陸と六車さんとは別々になり、怜人さまの運転する車は海沿いの道をのんびり走る。


「だけど、あなたのお父さんはすごいですね。あのつくだ煮、本当に美味しかった。やりようによっては、大きなマーケットを狙えるんじゃないかな」


あの後、昼食の食卓にのぼった祖母たちが作ったつくだ煮は、お世辞抜きに美味しかった。

陸に向かって『調味液のph(ペーハー)が』とか、『うまみ成分とのバランスは酢酸が一番』とか自慢げに話していた父は、骨の髄まで研究者気質なのだろう。


そんな父が今まで姿を隠していた理由は、すべてが康弘さんのためだったという。

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