結婚も2度目だからこそ!
仕方なくその噂を口にする。
それを聞いたら、遠慮してくれるかもしれない、そう思ったから。

これを聞いて「そうだね」と肯定されるのは、まあ少しショックだけど。
でも私のことで、先輩がからかわれるのは申し訳ないし。

そんな私の思いをよそに、先輩はあっけらかんとして答えた。

「え?なんで?別に噂だし、嫌でもなんでもないけど。どうして俺が京香ちゃんと噂されるのを嫌だと思うのさ。嫌だと思うくらいなら、京香ちゃんを毎週誘ったりなんてしないよ」

先輩のその言葉に、思わず顔を赤らめる。

逆に返せば、噂をされてもいいから私を誘うってことなわけだし。
それってまさか、と少し胸が高鳴った。

「そ、そうですか」

「うん。京香ちゃんも別に気にしてないんでしょ?ただ飲みに行っているだけなんだしさ、やましいことなんて何にもないんだし、周りに何かいわれても、ただの後輩ですって言っておけばいいじゃん」

「……そうですね」

先輩のその言葉は、さっきまでの胸の高鳴りを一気に沈めさせた。


"後輩"

その通り私は先輩の後輩で、それ以上何もあるわけじゃない。
先輩は私のことを、ただの後輩としてしか見ていない。

そんなことはじゅうぶん分かっているのに、どうして落ち込んでしまうんだろう。


「じゃ、また仕事終わったら下で。よろしくね」

そう言って先輩は私の前からいなくなった。



午後はなぜだか気分が晴れることはなくて、ずっともやもやしていた。

どうしてこんなに晴れないんだろう。
……こんな気持ちになるのって、もしかして。




――もしかして、私、先輩のことを好きになった?


「……まさか、ね」

つい、その言葉が漏れる。


そんなわけない。
だって、まだ私の心は癒えていないんだもの。

きっとこんな気持ちになるのは、私の心が弱っているから。
弱った私に先輩が優しくしてくれるから。

ただそれだけ。
それが勘違いさせる原因なんだと思う。
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