腹黒エリートが甘くてズルいんです
「……じゃあお願いします」


一応ノッて、他人行儀に返してみる。

目を閉じ、胸元で両手をぐるぐるする動作はさしづめ水晶玉を前に未来を予言する胡散臭い占い師そのもの。


「……見えます、オトコが、イケメンの姿が見えます」


ハイハイ、と思って聞いていると、早速飽きたのか、由依が綺麗にナチュラルに増量しているまつげをしばたかせながら、通常のトーンで聞いてくる。


「あれでしょ。例の焼けぼっくいと、結局付き合うことになったんでしょ? 不倫をお勧めはしないけど、あんた達の場合は出会ったのは奥さんよりうんと早いんだろうから、よしとするわ」


由依がそんな『早い者勝ち』みたいなポリシーを持っているとは知らなかった。

そんな感想は今どうでもよく、とりあえず誤解を解くことから始める。


「だーかーら、前も言ったけど、焼けぼっくいじゃないから。変なあだ名つけないでよ」


元カレ、なんて名称ですらない、ただの旧友という関係の酒井君。

そう、ただの、友達。
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