派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
……負けました
 



 朝、秘書室で、葉子と話しながら、デスクを拭いていると、渚が来た。

「おはようございます」
と二人で頭を下げる。

 渚が、おはよう、と言いながら、こちらを見たが、蓮は視線を逸らしてしまう。

 そのまま、社長室の扉は閉まった。

「あら、よそよそしい。
 なにかあった? 蓮ちゃん」

 布巾を手に、葉子がにんまりと笑う。

 怖いよ。
 こういうときの浦島さんは怖い。

 逃げられないような感じがあるからだ。

 すぐにまた扉が開いた。

「なんか機嫌悪いのか、蓮」

 ぎゃーっ。
 戻ってきたっ。

 蓮は何故か葉子の後ろに隠れてしまう。

 渚は、なんなんだ? という顔をしたあとで、
「後でお茶持ってこい」
と蓮に言って扉を閉める。

 渚が消えるのを待って、葉子は笑い出した。
< 174 / 383 >

この作品をシェア

pagetop