派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
それがどうかしましたか?
 



「未来ー。
 あんた、今日も遊びに出るんなら、これ、蓮様にお持ちして」

 秋津家のキッチンでつまみ食いをしていると、珍しく自宅に居たらしい奥様と話していた叔母、友江(ともえ)がそう言いながら、戻ってきた。

「はいはい」
と言いながら、油のついた手を洗っていると、

「またつまみ食いしたわね」
と言ってくるので、

「大丈夫、今日も美味しいよ。
 蓮好みの味だね」
と言うと、また、蓮様を呼び捨てにして、と怒られる。

 だが、子供の頃からの付き合いだ。

 子供にとっては、蓮が叔母が働いている屋敷のお嬢様かどうかなんて関係ないし。

 秋津の会長が、孫の蓮か、その婿を後継ぎにと言っていることなんて、もっと関係のないことだ。

 まあ、大きくなって、蓮は遠い存在なんだな、と思わないこともなかったが。

 蓮は、まったくそんなこと気にするような性格ではなかったから、昔通りの関係が続いていた。

「蓮様は、まだ戻られるおつもりはないのかしら」
と叔母が言うので、

「ないと思うよ。
 いい相手が出来たみたいだから」
とつるっと言って、眉をひそめられる。
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