それを愛だというのなら
「け、け、健斗……くん」
「くんはいらない」
「じゃあ、健斗」
「よし」
名前を呼んだだけで、彼は満足げににっと笑い、手を離す。
「じゃあ、また」
「ま、またね!」
バイクに乗った王子様は、そう言って風のように去っていく。
彼の背中が見えなくなった途端、膝の力が抜けた。
き……キスされるのかと思ったじゃないか!
目瞑ったりしなくて良かったよ。してたら大恥だったよ。ああ恥ずかしい。
それにしても、今日は水沢くん、もとい健斗の新しい一面をたくさん見ちゃった。
サボってるくせに勉強ができること、バイクの免許を持っていること。
人にものを教えるのが上手で、手が早そうに見えて実はそうでもない。
瞼を閉じればその裏に、健斗の不敵な微笑みが浮かぶ。
あんまり好きになっちゃ、ダメなのに。
お別れが、辛くなるだけなのに。
なのにどうしてこの胸は、暴れるのをやめてくれないんだろう……。
その後、夕日が完全に沈むまで、私の頬も空と同じ、赤く染まったままだった。